東京高等裁判所 平成2年(ネ)1922号 判決 1991年6月06日
控訴人(附帯被控訴人)
大東京火災海上保険株式会社
右代表者代表取締役
小坂伊左夫
右訴訟代理人弁護士
島林樹
同
藤本達也
同
赤川美知子
被控訴人(附帯控訴人)
小野寺隆
右訴訟代理人弁護士
山本眞一
同
井上幸夫
主文
原判決中控訴人(附帯被控訴人)敗訴部分を取り消す。
被控訴人(附帯控訴人)の右取消にかかる部分の請求を棄却する。
被控訴人(附帯控訴人)の本件附帯控訴を棄却する。
訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
控訴人(附帯被控訴人。以下「控訴人会社」という。)は、「原判決中控訴人会社敗訴部分を取り消す。被控訴人(附帯控訴人。以下「被控訴人」という。)の右取消にかかる部分の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求め、附帯控訴として、「原判決を次のとおり変更する。1 控訴人会社は被控訴人に対し、四一四六万三二〇三円及びこれに対する平成元年一二月二一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。2 訴訟費用は第一、二審とも控訴人会社の負担とする。」との判決を求めた。
二 当事者双方の主張<略>
三 証拠関係<省略>
理由
一(「本件保険契約」の更新と本件事故の発生)
控訴人会社(取扱保険代理店は訴外東洋、以下同様。)と被控訴人との間で本件保険契約(原判決二枚目表三行目から同裏三行目まで参照。)の更新が締結されたこと及び右契約に「運転者の年令制限」として「26サイミマンフタンポ」、すなわち、「運転者が二六歳未満の場合は損害を担保しない。」旨の特約(以下「本件特約」という。)が付されていたことは、当事者間に争いがない。また、被控訴人の長女昌枝が本件自動車を運転して本件事故を起し、これにより村椿及び訴外吉野に損害を負わせたことは、原判決理由中の「第一争点一について」の説示(原判決四枚目表七行目から同裏一行目まで)のとおりであるから、これを引用する(ただし、同四枚目表七行目の冒頭に「いずれも成立に争いのない」と付加する。)。
二(本件特約の告知義務違反について)
1 被控訴人は、控訴人会社の代理店である訴外東洋(代表取締役小藤東洋、以下同様。)が、先に更新された本件保険契約の募集並びに契約の締結に際し、控訴人に本件特約について告知すべき義務があるのにこれを怠り、そのため、自己の利益に適合しない運転者につき年令制限特約のある本件保険契約を締結したため、控訴人の娘昌枝(当時二〇才)が本件自動車を運転中に起した本件事故による多額の損害の賠償につき、保険金の給付を受けられず自己負担で損害賠償をせざるを得なかったとして、控訴人会社には、右事故により訴外吉野及び同村椿に支払った損害賠償金相当額の損害を賠償する責任があると主張するので、まず、訴外東洋に本件特約について右にいう告知義務違反があったかどうかについて検討する。
2 保険募集の取締に関する法律(以下「保険募集取締法」という。)は、一六条一項一号において、保険代理店等が、保険の募集に関して、保険契約者に対して、「保険契約の契約条項のうちの重要な事項を告げない行為」を禁止して保険代理店に右重要事項の告知義務を課し、その違反に対しては、二二条一項四号により罰則を課すとともに、右募集につき、保険契約者等に損害を被らせた場合には、一一条一項において当該保険代理店の「所属保険会社」に右損害を賠償すべき責任を負わせている。これら規定の趣旨は、保険契約者等の利益の保護を図るとともに、保険会社の保険契約者に対する責任の所在を明確にし、もって、保険事業における取引の安全を図ろうとするものであると解される。
このような保険募集取締法の立法趣旨からすると、本件保険契約においては、本件特約のような運転者の年令制限に関する特約が付された場合には、保険契約者にとって、一方では保険料の割引による減額が施されるといった利益も受けるが、他方では保険契約の内容として担保範囲を著しく縮小させるものであるから、右特約に関する事項は、前掲一六条一項一号にいう保険契約の契約条項のうちの「重要な事項」に該当すると解される。したがって、保険代理店等保険募集を行う者は募集にあたり右特約事項を前記法規定に基づき被保険者等に告知しなければならない義務があるものといわなければならない。そして、本件のように保険期間が一年間で、一年毎に契約を更新する場合であっても、保険代理店等保険募集業務を執行する者は、原則として、各更新契約の都度、契約条項のうち重要事項の告知をすべき義務があるというべきである。もっとも、その告知の方法は、被告知者が実際それによって当該事項の内容を認識することができるような方法、態様、程度で行われるべきではあるが、その目的が達せられるものであれば、必ず文書又は口頭のいずれかによらねばならないとか、必ず両者を併用しなければならないというものではなく、また最初の保険契約の場合でも更新の場合でも一律に全く同じ態様、程度の方法で告知しなければならないものともいい難い。要するに、右告知は、特段の事情のない限り、相当の方法、態様、程度により、通常の常識をもった保険契約者等(保険申込者)に右事項を認識、理解させうるものであって、右認識、理解のもとに当該本件契約者(申込者)が契約につき任意の意思決定ができるものであれば足りるというべきである。
3 そこで、次に本件保険契約の更新に際して、訴外東洋に、本件特約について右にいう告知義務違反があったか否かをみるに、<証拠>を合せみると、以下の事実が認められる。
(一) (被控訴人の従前の自動車損害保険契約と契約内容について)
(1) 被控訴人は、昭和五二年一〇月普通乗用車(日産バイオレット)を購入し、訴外安田火災と自動車保険契約を締結したが、右契約には運転者の年令二六歳未満は不担保とする旨の特約が付されており、普通より減額された保険料を支払っていた。右訴外安田火災との保険契約は、昭和五五年まで毎年一〇月に更新され継続された。
(2) ところで、一般に、保険業界では、昭和四五年六月、保有自動車総台数が九台以下の契約者(ノンフリート契約者)については、運転者年令が事故発生率の高い二六歳未満であるときは保険者は損害を担保しないかわり、保険料を年令制限のない場合の半額程度まで減額する(ただし、貨物自動車は適用対象外)という、いわゆる年令別保険料制度が導入された。二六歳未満の運転者による自動車事故率と同年令以上の自動車運転者による事故率に格差があり、このため右の運転者年令制限特約による保険料額が割り引かれるという特典の効果もあってか、昭和五〇年代には一般的に普及していた。しかし、この制度は、右のような保険料の減額という特典はあっても、運転する者の年令によっては、対象自動車の運転によって生じた事故であっても、保険金の給付が受けられない不利益があるため、同制度発足当初より保険会社ないし保険代理店は、この特約に関する事項を契約締結の際保険契約者に対して告げるべき重要事項として指導し、その旨の講習もされてきていた。
(3) 右訴外安田火災と被控訴人間の保険契約においては、被控訴人は、二六歳未満不担保制度に基づく特約を付けることができること、その利、不利についての一般的な説明を受け、それを承知で右特約付の保険契約を締結し、その旨の記載のある保険契約証券の送付を受け、保険料も減額されたものを支払っていた。そして、毎年の契約更新の際にも、前年度保険契約の内容の説明をうけ、右契約期間中両者間に何の問題も生じなかった。
(二) (本件自動車についての自動車保険契約とその契約更新について)
(1) 被控訴人は、昭和五九年八月、本件自動車(中古の日産ローレル)を訴外東洋から購入し、右東洋が保険代理店となっている控訴人会社との間で初めて本件保険契約を締結した。その際、同人は、東洋の代表取締役小藤東洋から本件保険契約の説明を受け、同時に保険契約内容全般について説明をした控訴人会社発行の「契約のしおり」の交付を受け、その時から「二六歳未満不担保」特約付きの保険契約を結び、通常より減額された保険料を支払っていた。
(2) 右保険契約は翌昭和六〇年八月に最初と同内容で契約が更新されたが、被控訴人は、右最初の契約と次の契約更新のいずれの際にも、右小藤東洋から、二六歳未満不担保の説明を受け、その都度交付を受けた保険証券には、「運転者の年令条件」の欄に「26サイミマンフタンポ」とタイプで打刻された文字が記載されていた。
(3) 控訴人会社(その所属保険代理店)においては、保険契約者との間の自動車保険契約が満期となりその更新手続をする際には、まず、満期通知の葉書と前年度の契約内容及び今年のお勧め契約内容が記載されている継続申込書を各代理店に送付し、代理店はこの葉書に代理店名入りのスタンプを押し、前年度の契約内容(保険の種類、保険金額、保険料、付された特約内容も)を記載し、切手を貼って、自店の顧客(前年度保険契約者)に送ることになっていた。それ故、当該保険により担保される運転者の年令制限に係る二六歳未満不担保の特約も、保険料算出根拠の欄に片仮名算用数字使用のタイプ文字で「26サイミマンフタンポ」と打刻されて記入されることになっていた。したがって、訴外東洋は、昭和六〇年八月の第一回目の契約更新の際には、このような「26サイミマンフタンポ」と記載された葉書を被控訴人宛に郵送した。そして、これを受けた被控訴人の妻三南子は、被控訴人の意を受けて、電話で、右東洋に対し、「前年度どおりでよろしくお願いします。」と契約更新を申し入れ、昭和六〇年八月九日付で右第一回目の更新がされた。
(4) 次いで、訴外東洋は、昭和六一年八月の第二回目の更新(本件で問題とされている保険契約)に際しても、前年の更新の場合と同様、満期の一か月前の七月上旬に被控訴人の自宅に宛てて葉書を郵送した。被控訴人は右葉書をちらっと読んだが、第一回目の更新の際と同様に、被控訴人の妻三南子をして東洋に、「従来どおりでお願いします。」と電話で返答させ、契約の更新を申し入れ、昭和六一年八月九日、本件自動車につき、前年同様二六歳未満不担保の特約付で算出・減額された保険料を支払い、控訴人会社は、東洋を介して、右保険料を受領した。こうして昭和六一年八月一〇日付で第二回目の更新がされ、本件保険契約が締結された。
控訴人会社は、右契約更新に伴ない自動車保険証券を同月一八日付で作成し、被控訴人の自宅へ郵送した。被控訴人は、右証券を受領し、その内容をちらっと見てそれ以上に詳しくは読まなかったものの、以後これを自宅に保管していた。右自動車保険証券の表面には、前示のような「運転者の年令条件」欄には、「26サイミマンフタンポ」と、「ノンフリート・フリート」欄には、「ノンフリート」と、いずれも片仮名と算用数字のタイプ印字で記入されていた。そして、その記載は誰でも読みとれる明瞭なものであり、最初の保険契約及び第一回目の契約更新の際作成交付された自動車保険証券のそれとも変わらないものである。
4 以上の認定事実によれば、本件保険契約の第二回目の更新の前には、前年度に、本件と同じ種類、内容で第一回目の契約更新がされ、また、その前々年度に、最初の本件保険契約が締結されていたのであり、右二回の契約とも、二六歳未満不担保の特約が付され、右各契約募集ないし締結の際に被控訴人は、訴外東洋から二六歳未満不担保の説明を聞き、右特約につき告知をうけ、減額された保険料を支払っていたのである。また、右各契約締結後は、保険証券が被控訴人に交付されその手元におかれていたのであり、右各証券には「26サイミマンフタンポ」と明確なタイプ文字で記入されていたのであって、第二回目の更新の際にも第一回目の更新の場合と同様に、期間満了一か月前の保険契約継続募集の段階で、東洋から被控訴人宛に前年度の契約内容(保険の種類、保険金額、保険料が付された特約等)を記載した満期通知の葉書が送付され、右葉書にも「26サイミマンフタンポ」と明瞭に記入されており、右文字とその文意は通常自家用車を保有し保険契約締結に関心のある程の人なら、読めないとか内容を理解できないものとはいい難いものであったのである。そして、被控訴人は右満期ご案内通知の葉書を受領し、これをちらりと読み、あとの更新の手続は妻三南子に委ねていたが、その都度送付された自動車保険証券は自宅に保管していたことが明らかである。そうであれば、本件保険契約の締結及び更新にあたって、被控訴人は本件特約について十分説明を受けこれを承知していたものというべきであり、その点について、控訴人会社に告知義務の違反があったということはできない。
5 この点に関して、被控訴人は、以前同人が訴外安田火災と契約していた際の同社の様式の方が、控訴人会社のそれよりはるかに明確で理解しやすく、本件自動車保険証券の方は不明確で理解困難であると主張する。
確かに、訴外安田火災の自動車保険証券の場合は、当時、運転者年令条件の欄内に「年令を問わず」、「21歳未満不担保」、「26歳未満不担保」と漢字で記載された条件事項の前頭に丸印を付ける方法によって特約内容を確定するようになっており、それが、昭和六二年以降は、同証券の表面の運転者年令条件の欄に漢字と算用数字によるタイプ印字で「26歳未満不担保」と打刻して記入するように改良されており、右改良前後を含め訴外安田火災の自動車保険証券の様式の方が控訴人会社のそれより一般の契約者にとって分り易いものということはできる。そして、一般に、とかく複雑な保険契約を少しでも契約者に誤りなく理解させるために、保険証券等の記載方法により一層の配慮がされることは好ましいことではある。しかしながら、それとの比較によっても、控訴人会社の前記証券の記載が不明確で理解し難いものとまでいうことはできない。
6 次に、被控訴人は、本件保険契約の第二回目の更新の時期には、被控訴人の長女昌枝及び長男実が自動車運転免許を取得するに至っており、最初の保険契約の締結時や翌年の第一回目の契約更新の場合とは、運転者の点からみた被控訴人の家族構成は異る状態になっていたのであるから、被控訴人の家族の年令、運転免許の取得等を承知している訴外東洋としては、本件保険契約の更新にあたって、特に本件特約の存在により生ずべき不利益を説明し、この特約をはずすよう勧めるべき義務が生じていたのに、東洋はこれを怠ったと主張する。
しかしながら、どのような内容の契約を締結するかは、契約者が、その必要に応じ、その意思で決めるべきものであって、保険契約の募集に当たる者のすべきことではなく、特段の事情のない限り、後者の告知義務は、各契約の内容を誤りなく理解させるに必要な説明をすることに止まり、それ以上にどのタイプの契約が相手の家族構成に応じて最も適当であるかは、契約を勧めるうえでのサービスないしは営業上の配慮に止まるものと解さなければならない。
ところで、<証拠>によれば、被控訴人の長女昌枝は昭和六一年七月四日に、長男実は同月二二日に、それぞれ自動車運転免許を取得したことが認められるものの、当審における証人小藤東洋の証言及び同証言により成立が認められる乙第四号証、東洋の事務所・店舗近辺の写真であることに争いのない乙第一四号証によれば、東洋の代表者小藤東洋は、昌枝が本件自動車を運転している姿を現認したことはなく、また、同証言及び成立に争いのない甲第四ないし第九号証によれば、実は、従前から独自に自動二輪車を保有し、その買替もしており、その運転するバイクホンダMC11排気量250CCについては、昭和五九年一二月以来毎年自動車保険契約を更新し、同六一年の本件事故当時も自動車保険契約(ネンレイトワズタンポ、ノンフリート特約付)を締結していたこと、そして、実は、毎日のように専用のバイクで右東洋の店に現れたが本件自動車に乗ることはほとんどなかったこと、さらにまた、被控訴人は、昭和六〇年六月購入した自動二輪車(スズキ・ユーデイ・ミニバイク)につき、同年八月の本件自動車保険契約更新の際には、ファミリーバイク特約を付け加えて保険料を支払っていたことが認められる。そして、原審並びに当審における被控訴人の供述によれば、被控訴人は本件自動車を同人の専用車として購入し、通常子供らにはなるべくこれを運転させないようにし、たまに運転させるときでも特に注意するよう警告をしていたというのである。さらに、前記証人鈴木公久及び同小藤東洋の証言によれば、本件事故当時、昌枝はすでに婚約し、婚約者と被控訴人宅を出て他所に住んでおり、本件事故は右同居先から被控訴人宅に戻ってくる途中に発生したことが認められる。そうであれば、被控訴人の家族の中に運転可能者が増えた事情があったとしても、前認定の事情に鑑みれば、被控訴人が本件保険契約の第二回目の更新当時に保険料を増額してまで本件特約を解除した筈であったと断定することはできない。そうであれば右契約更新当時、保険代理店たる東洋として、その説明義務若しくは告知義務が通常より厳しく要求されるような特段の事情があったとはいえず、この点から控訴人会社の告知義務違反をいう被控訴人の主張は採用できない。
7 なお、被控訴人は、本件保険契約の更新にあたり、事前に送付されてきた前記満期通知の葉書や右契約締結直後に送付されてきた自動車保険証券に「26サイミマンフタンポ」の記載があったとしても、これをちらっと読んだか若しくは殆ど読まなかったため、その内容を失念し、あるいは読んでもその存在を全く理解できず、その内容を知らなかった旨主張し、原審における証人小野寺三南子の証言及び原審並びに当審における被控訴人本人の供述中には、それに沿う供述もある。確かに、当審における証人小藤東洋の証言及び被控訴人の本人尋問の結果によれば、本件事故発生の直後、三南子からの事故発生報告と保険金支払に関する問い合わせに対し、東洋から被控訴人に本件特約により本件事故については保険金が支払われないことが告げられたとき、被控訴人は大変驚き、東洋に対して何とか保険金が支払われるようにしてくれと懇願し、東洋と相談のうえ、本件事故の前日に本件特約を解除し、追加保険料を払い込んだごとくに工作したという事実が認められ、そのような経緯に照らせば、当時被控訴人はこの特約を失念していたか、これについて十分な認識を有していなかったのではないかと疑われないでもない。しかしながら、前記認定のような契約更新の度に交付される書面の右記載の単純明確さ、同人の右各書面の受領保管と同人の妻による訴外東洋に対する電話による応答、本件事故直後の交渉の状況に、被控訴人が昭和五二年以来の従前の自動車に、そして昭和五九年以来本件自動車に関し同種特約付の各保険契約を締結してきた経緯、さらには、本件保険契約更新時期にはノンフリート契約者につき年令別保険料制度が一般に導入されてから一六年以上経過しているなどの諸事情を勘案するとき、被控訴人が本件特約について十分な説明を受けていなかったとは到底いえず、前掲証人小野寺三南子の証言及び被控訴人本人の供述中本件特約の内容を全く知らなかったとする部分は、右事実に照らし到底信用することができない。
三(結語)
被控訴人の本訴請求については、その外にも、損害及びそれとの因果関係など検討すべき他の問題もあるが、以上の事実によれば、保険代理店たる訴外東洋には、本件保険契約の募集にあたり、本件特約につき十分な説明、告知をしなかったものとは認められず、保険募集取締法一六条一項一号の規定に基づく告知義務に違反したものとはいえない。したがって、右義務違反を前提として、同法一一条一項の規定に基づき所属保険会社である控訴人会社に損害の賠償を求める被控訴人の本訴請求は、その余の点を判断するまでもなく理由がなく、失当として棄却を免れない。よって、これと異なり被控訴人の本訴請求を一部認容した原判決はその限りにおいて失当であるから、控訴人会社の控訴に基づき、原判決中控訴人敗訴部分を取り消し、右部分につき被控訴人の請求を棄却し、被控訴人の附帯控訴は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用について民訴法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官千種秀夫 裁判官伊藤瑩子 裁判官近藤壽邦)